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インタビュー

クルマづくりに変革を。ソフトとハードの融合で目指す真のソフトウェアファースト【先進技術】

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Development株式会社

制御電子プラットフォーム開発部でクルマづくりのプロセス改善を推進する長尾 洋平。他部署、他カンパニーと横断的にチームを組成し、開発現場における橋渡しの役割を担っています。「もっといいクルマをつくりたい」という社員の想いを実現するため、長尾が大切にする価値観と今後のビジョンを語ります。

長尾 洋平
2017年 トヨタ自動車(株)へ転職し、電子制御プラットフォーム開発部にて、自動運転関連ソフトウェア開発およびソフトウェアエンジニアリング技術開発に携わった後、現在は自動車のシステム設計に従事。

お客様目線のクルマづくりに、よりソフトウェアの力を

トヨタはいま、自動車メーカーからモビリティカンパニーへフルモデルチェンジするべく、社内でさまざまな取り組みをしています。そのひとつが「ソフトウェアファーストなモノづくり」です。

クルマのモデルチェンジによりお客様が乗り換えてくださることは、ハードウェアの交換と捉えることができます。一方、同じクルマで機能だけが変わる場合はソフトウェアの交換と捉えることができ、例えばスマートフォンのアップデートと同じと言えます。今後は、クルマのモデルチェンジだけではなく、ソフトウェアによる機能のモデルチェンジにより、新しい体験と価値を、継続的にお客様に提供することにフォーカスしていかなければならないと考えています。

ソフトウェアファーストなモノづくりの取り組みにおいて大切なのは、お客様が笑顔になれるような価値や体験を、ソフトウェアとハードウェアがお互いに独立かつ協調して提供することです。

このような中で、私はトヨタのクルマづくりを変えていくプロジェクトに携わっていて、ソフトウェアの力をより活用して、先行的に物事を設計、および試作する方法や仕組みについての技術開発をしています。クルマのシステムは多くの専門領域の複合体で、とても大きく全体を把握することは難しいのですが、例えばそこをソフトウェアの力を使って開発をより速く、確実にしていこうという活動です。改善というより、どちらかというと変革に近いかもしれません。

私はクルマ開発センターという組織に所属していますが、いまはその枠を超えてトヨタ内を全社横断的に、またサプライヤーの方々ともチームを組んで、近い将来あるべきクルマづくりの技術開発をしています。いわゆる特命のタスクフォースみたいな感じでしょうか。

完成車メーカーで感じるモノづくりの醍醐味、ソフトウェアエンジニアの価値

トヨタに転職する前、私は電機メーカーで半導体の事業部に在籍しながら、クルマに関わるソフトウェアの技術開発や部品開発に携わっていました。半導体を動かすための仕組みで、クルマをどう動かしたいかは自動車メーカーが考えるため、次第に部品を作るだけでは物足りず、クルマそのものを作りたい、実際に動くものをつくりたいという想いが強くなりました。

私が転職先としてなぜ“トヨタ”を選んだかで言うと、事業規模の大きさが理由でした。当時、ハイブリッド自動車から水素自動車まで広く扱っていたトヨタであれば、やりたいこと・やれることの選択肢が広いだろうと考えたのです。また、愛知県だけでなく、東京都や海外にもソフトウェアの主要開発拠点があることも魅力でした。

トヨタに入社した当時は、自動運転システムの開発の業務を担当していました。年数を重ねるに従い、様々な業務、プロジェクトに入ってくれないか、というお誘いをもらえるようになってきました。今になって振り返ってみると、「ソフトウェアエンジニアリングの技術を量産開発で実践した経験」が社内で重宝されたのかなと思います。

クルマはヒトの命を乗せて走ります。安全・安心という言葉がよく使われますが、これはクルマとして備えておくべき、とても大切な性能です。ここ10年は、そのような安全・安心に加えて、どのような体験と価値をクルマがお客様に提供できるのか、という付加価値の部分が重要視されるようになってきていることを実感します。この2つをソフトウェアの力なしに実現することは難しいため、トヨタにおいてもソフトウェアエンジニアの価値や地位はより認められやすくなっていると感じます。

私の考えるクルマ開発の楽しさは、たくさんのお客様が日常で使ってくださる複雑な工業製品を、見て、触って、動かせるところにあると思います。トヨタにはレアなモノづくりの現場があります。動くモノの開発に興味や情熱をもっていらっしゃれば、きっとこれからのトヨタを楽しいと感じてもらえるのではないでしょうか。

文化を変え、文化を整える。「もっといいクルマづくり」への試行錯誤


▲共通の想いを持つトヨタの仲間たちとの熱いディスカッションは欠かせない

トヨタは会社の規模が大きいので、社内カンパニーや部門が変わると文化も異なります。それは、これまでの「改善」の積み重ねであり、少しでも良いものをつくろうという想いが具体化したものです。その道の匠がたくさん身近にいることはトヨタの良いところですが、ソフトウェアファーストなモノづくりにおいては、これまでのやり方を変えることも必要です。

成功体験を忘れて自ら変わるためのチャレンジを続けるということは、考えている以上に難しいことです。しかし、どの社員も共通して考えていることは、「もっといいクルマ」はどうやったら作れるんだろうか、という根底の部分です。文化や表現の手段は違いますが、大きな想いは共通しているなと日々感じています。そうであるが故、お互いの想いが強くて反発することもあるんですが……(笑)。

文化を整えていくためには、相手と解り合わなくてはいけません。リスペクトする気持ちを持って、言葉、態度に気を付けること。誰に対しても変わらず平等に声をかける、アウトプットに対しては公平な評価をする、上下関係なく接すること……これらを毎日積み重ねることが大切だと信じています。

良いことは良い、悪いことは悪いと伝え合い、本当に目指したいところに集中する、そういう雰囲気をチーム内外で作っていきたいと思っています。

開発現場でもトヨタ生産方式を、全社のベクトルを合わせ社会に貢献していく


▲チームメンバーとの食事も大事なコミュニケーションの場

トヨタに転職した直後の受け入れ研修で、工場見学に行った時のことでした。これまでもいろいろな工場を見たことはありましたが、トヨタの工場を見たとき、実はものすごく感銘を受けたんです。最新鋭の機器が揃っているとかそういうことではなく、人の動きや物の配置、並びがものすごく洗練されていて、「これは凄い、これがトヨタ生産方式か」と。

トヨタでは工場と開発、どちらも同じく“現場”と呼ばれます。ソフトウェアまたはハードウェアを開発している現場でも、工場の現場に負けないようにトヨタ生産方式をもっと浸透させたいと考えています。そのためには、まず自分で作ってみる、それを「こういうものなんだ」と動かしてみせる、意見をもらって改善する……このようなサイクルを素早くまわすためにも、ハードウェアも知っているソフトウェアエンジニアのチームが必要とされています。

私は、エンジニアのチームをまとめることが得意なので、速いサイクルでアイデアを具体化できる、自律したチームをできるだけ多く構成できるよう人材育成面で工夫しています。こうしてエンジニアのチームが成熟し、広がっていくことで、トヨタのモノづくりがより速くなり、結果としてお客様が私たちの製品をより早く入手して体験してくださることにつながると考えています。